2020.11.04

【イベントレポート】インバウンドが期待できない今、地域の自治体、中小企業が取り組むべきDXとは

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このコロナ禍で最も打撃を受けた業界の1つが、観光産業であることは論を待たないでしょう。2019年に3200万人近くにまで達したインバウンドも、新型コロナウイルスの影響による渡航制限で皆無に等しい状況に陥りました。観光を主軸産業とし、インバウンドをあてにしていた地域にとってはまさに致命的と言えるかもしれません。そんな状況下で地方自治体や地域の商店、中小企業が取り得る策はあるのでしょうか。

「TerraSkyDays 2020 Online」では、2日目の最後のプログラムとして、「逆境をDXで切り拓く - 地域観光経営の新たな挑戦 -」と題したパネルディスカッションを企画しました。旅行商品販売などを中心に幅広い事業を展開し、地方創生などにも関わるJTBの執行役員 檜垣克己氏と、顧客管理プラットフォームを提供し「地域CRM」を推進するセールスフォース・ドットコムの常務執行役員 田村英則氏、さらに前岩手県知事で現在は日本郵政の社長を務める増田寬也氏による、地域の観光産業が生き残るためにチャレンジすべきデジタル化、DXについてのディスカッションから、コロナ禍の逆境に立つ向かうすべての産業に携わる方に、少しでも勇気とヒントを得ていただければと思います。

JTBとセールスフォース・ドットコム、コロナ禍での提携の理由とは

セッションでは最初に、日本郵政の増田氏がコロナ前までの地域産業の状況を説明しました。人口減や高齢化が著しく、一次産業から三次産業まであらゆるところで縮小し、「国からの補助金などでなんとか経済を持たせている」というのが地方経済の実情だったと同氏は語ります。

元総務相 前岩手県知事 日本郵政株式会社 取締役兼代表執行役社長 増田寬也氏

ただ、観光素材としては豊かな自然景観、伝統芸能や文化、多様で安全な食など、日本の地方ならではの魅力が多いことも確かで、観光を基軸に「もう一度地域を立て直そう」という機運から、2019年は年間3188万人のインバウンドの呼び込みに成功していた、と振り返りました。

2020年はコロナ禍に突入したことで、こうした地域の観光産業も再び危機的な状況にさらされています。が、そんななか、JTBとセールスフォース・ドットコムは2020年8月に「地域DX推進のための包括的連携・協力に関する協定」を締結しました。
この取り組みについてJTBの執行役員である檜垣氏は、地方においてはプロモーションやコンテンツ・商品開発、顧客の行動分析など、それぞれで縦割り的に事業化しており、効果的に連携できていない、という解決すべき大きな課題があったことが提携の理由だと明かしました。

株式会社JTB 執行役員 法人事業本部 事業推進部長 檜垣克己氏

観光で訪れた消費者に地域のコンテンツ・商品を気に入ってもらい、産業拡大につなげるためには「次の開発、改善に繋げていく、そこを一気通貫でやり遂げる」必要があります。それに欠かせないカスタマージャーニーの分析や顧客の行動予測などを可能にし、さらに「次の打ち手が見える」ソリューションをもつ、セールスフォース・ドットコムとの連携がベストな選択肢だったと檜垣氏は説明しました。

「プロモーションすればバンバン物を買ってもらえる時代ではありません。その意味で、”地域CRM”、“顧客起点のOne to Oneマーケティング”というセールスフォース・ドットコムの主旨は、まさしく観光においても必要なところ」と檜垣氏。「お客様起点で、これに合わせたチャネルやタイミングでコンテンツ配信することで、エンゲージメントを高められると期待しています」と話しました。
セールスフォース・ドットコムの田村氏は、その「地域CRM」というキーワードは、地域の金融機関とともに地元中小企業向けに同社のCRM導入を推進していくなかで生まれた発想だった、と振り返ります。

政府による、観光業の振興を目的とした地域共通クーポンなどの施策が行われているなかで、消費者が「クーポン使って良かった、来てよかった」に止まってしまうと次につながりません。それを起点に「また来たい」と思わせるための仕掛けづくりやデータの連携を行うには、CRM、特に自治体や観光業者などが「共通で利活用できるCRM」が必要と田村氏は結論付けました。そこで地域の観光素材のアレンジに長けたJTBと提携することで、より効果的に観光振興につなげられると踏んだようです。

株式会社セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 エンタープライズ公共・金融営業統括本部長 田村英則氏

とはいえ、現状は特効薬のないウィズコロナの時代。他国との往来にも制限があり、インバウンドが元通りに復活する見込みはまだありません。そのため檜垣氏は、当面の方針として国内の近隣地域を観光する「マイクロツーリズム」を充実させるなど、国内旅行の拡充に向けた施策を打っていく必要性があるとしました。

また、マーケティングの側面からも、地域や住民に配慮し、旅行者自身にも地域の事情を理解してもらいながら観光してもらう「レスポンシブルツーリズム」の考え方が重要になるとの認識を示します。「今までのような千客万来型のスタイルではなく、本当に来ていただきたい国、人にマーケティングを行うことが必要だと思っています」。

さらに旅行代理店もデジタル化、オンライン化をさらに進める必要性があるとし、同社の取り組みの例として、多言語対応の非接触型コミュニケーションツール「Kotozna In-room」や、リアルと360度映像のVRを組み合わせた「バーチャル修学旅行360」、さらには多言語メニュー表示から顧客データの可視化までをカバーする飲食店向けオンラインシステム「Nice to MEAL you! 」といった地域DXを支援するサービスを開発中、もしくはすでに提供していることを紹介しました。

地方の自治体、金融機関は「民間企業をどんどん巻き込むべき」

JTBとセールスフォース・ドットコムの提携やさまざまな取り組みについて、増田氏は賞賛しながらも、「観光が元通りになるのは5年後になるかも、という覚悟をしなければいけない」と訴えました。しかしながら、そのような三密の回避や非対面・非接触が続く状況では、デジタルをどう使うかが鍵になるとも語ります。「このウィズコロナのときにいろいろなことを試みて、将来のポストコロナのときに何が有効かを確認することが大事だと思う」と同氏。

一方で、現在は年間約9000億円規模の日本の農産物輸出を、5年後に2兆円、10年後に5兆円まで伸ばすという目標のもと、政府が多くの施策を打ち出していることにも触れた増田氏。地方の1次産業の活性化のきっかけになる可能性もあり、そこに深く関係していくJTBやセールスフォース・ドットコムの現在の取り組みが、「将来のポストコロナの時代に、地方にもう一度光を当てることになるのではないか」とも述べました。

さらに増田氏は、DXに取り組もうとしている地方自治体に向けて、「民間企業をどう巻き込むかという視点が大事。自前主義ではなく、デジタルや観光に関する知見を持っている民間企業をどんどん入れること」とアドバイス。地銀など地域の金融機関に対しても、「主役」意識をもち、地元企業の金銭的な支援だけでなく、地元の若い大学生などの意見、あるいはIT企業のアイデアを取り込むための橋渡し役をしてほしい、と注文しました。
田村氏は、セールスフォース・ドットコムが多様な規模・業種の顧客を抱えており、そこでの成功体験や生の声が地域DXを目指す自治体、中小企業にとっても大いに役立つ、とアピール。「地域の金融機関がDXを自ら体感してもらい、それを地域の企業、住民の皆さんにも提供することができるように支援したい」と抱負を語りました。

「私たちは人と人、人と地域、人とコト・モノ、そこをつなげていくのがミッション。そのつなげ方を快適にしていくのが地域CRMだと信じています」と語ったのは檜垣氏。「地域CRMが成功するよう、共創のテーマに沿って皆さんとタッグを組んで進めていきたい」とし、最後に「地域の元気が日本の元気です、ということを伝えたい」と力を込めました。

地域の自治体や企業においては、単独でDXを進めても地元の魅力を効果的に発信できるとは限りません。JTBとセールスフォース・ドットコムの提携に見られるように、「いろいろな場面、業種・業態で、こういう共創を続けることがデジタルイノベーション、DXに向けた1つの答えではないか」とテラスカイの佐藤。共創しながらDXを達成するという選択肢を積極的に検討する必要性を訴え、セッションを締めくくりました。
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