2026.06.15

Automotive Cloudで実現する保証管理(Warranty Management)の全体像とデータモデル

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当社では、社内の技術力向上の一環として、西日本の拠点メンバーを中心に Salesforce Automotive Cloud の勉強会を実施しています。検証環境での確認や公式ドキュメントの読み合わせを通じて得た知見を、同じようにキャッチアップする方の助けになる形で整理したのが本記事です。

はじめに:なぜAutomotive Cloudで保証管理なのか?

自動車業界において、保証(ワランティ)は新車購入後の顧客体験を左右する非常に重要な要素です。一般的に、自動車の保証には無償のメーカー保証(例:3年または6万キロ)や、有償の延長保証(特別保証)、さらに中古車向けのディーラー保証など、多岐にわたる形態が存在します。

しかし、従来の保証管理プロセスは、データの分断や手作業での審査により、処理の遅延や過払いなどの課題を抱えていました。Salesforce Automotive Cloudの「保証ライフサイクル管理(Warranty Lifecycle Management)」は、柔軟な保証条件の設定から、請求の受付、および自動裁定までをエンドツーエンドでカバーします。これにより、従業員の生産性を向上させ、過払いや不正請求を防ぎ、結果として顧客満足度(CSAT/NPS)の向上に寄与します。

保証管理を支えるオブジェクト群

Automotive Cloudの保証管理は、大きく分けて「保証条件の定義・リリース」「保証請求の手続き・裁定」の領域から構成されています。それぞれの領域で使われる主要なオブジェクトの関係性を整理します。

📦 (1) セットアップ / 基本データ
商品
Product2
車両モデル、仕様、または個別の交換部品や資材マスタを管理。
資産 / 車両
Asset / Vehicle
VINやシリアル番号を持つ顧客ごとの車両個体。
コードセット
CodeSet
不具合コードや標準作業工数(Labor Code)等のサービス標準値を定義。
🛡️ (2) 保証定義・割り当て
保証条件
WarrantyTerm
メーカー保証等の基本条件(期間、走行距離、交換種別など)を定義。
保証条件対象範囲
WarrantyCoverage
修理対象の部品や不具合作業コードごとの適用・除外ルール。
納入商品保証(資産保証)
AssetWarranty
中間オブジェクト。特定の「車両個体」と「保証条件」を紐づける契約情報。
⚙️ (3) 保証請求処理(4階層フロー)
請求
Claim
保証請求のヘッダー情報を管理。ステータスや下位明細の積上金額を保持。
請求項目
ClaimItem
対象車両ごとの請求明細。不具合発生時の走行距離等をルックアップ。
請求保証範囲
ClaimCoverage
故障コードや原因部品を特定し、適用する「納入商品保証」を紐づけ。
請求保証範囲支払詳細
ClaimCoveragePaymentDetail
実際に実施した作業、交換部品、かかった経費の最下位明細行。

1. 保証条件の定義と割り当てに関するオブジェクト

自動車メーカーが提供する保証のルールを定義し、個別の納入商品(車両など)に適用するためのオブジェクト群です。

オブジェクト名 API参照名 役割と特徴
保証条件 WarrantyTerm 一般保証や特別保証といった保証の基本情報(期間、走行距離などの対象利用状況、交換種別など)を定義します。
保証条件対象範囲 WarrantyCoverage 修理・交換対象となる部品や作業の割合などを設定します。除外フラグを用いて保証対象外とすることも可能です。
コードセット CodeSet 不具合コード(Fault Code)や作業コード(Labor Code)をグループ化し、標準化されたコードセットとして定義します。
納入商品保証 AssetWarranty 顧客ごとの個別の車両(納入商品)に対して、保証情報(開始日や終了日など)を割り当てます。

2. 保証請求(クレーム)に関するオブジェクト

ディーラーでの修理・部品交換後、メーカーに対して保証請求を行い、審査・支払いを行うプロセスを管理します。

オブジェクト名 API参照名 役割と特徴
請求 Claim ディーラーからメーカーへ送信される保証請求のヘッダーレコードです。状況や請求理由、重大度などの情報を保持します。
請求項目 ClaimItem 保証請求に含まれる対象車両や商品ごとの明細です。障害日や修理日、その時点の資産利用状況(走行距離など)を持ちます。
請求保証範囲 ClaimCoverage 不具合情報として故障コードや原因部品などを設定し、対象の納入商品保証を紐づけます。
請求保証範囲支払詳細 ClaimCoveragePaymentDetail 実施した作業コードや交換部品、経費を設定する明細行です。ここに記載された金額が親の請求レコードに積み上げ計算されます。

実践的な設計アプローチとアーキテクチャの要所

実プロジェクトにおいて、Automotive Cloudの保証管理を導入・設計する際、システムアーキテクトとして押さえておくべきコア技術とアプローチを整理します。

Key 1: Business Rules Engine(BRE)による判断ロジックの共通化と非属人化

一定の要件を満たす定型的な請求(例:一般保証期間内のバッテリー不具合等)であれば、Business Rules Engine(BRE)を活用して、あらかじめ設定したルールに基づく自動承認や支払金額の即時計算ロジックを実装できます。決定マトリックスや式セットを採用することで、レガシーシステムでブラックボックス化しがちだった複雑なビジネスルールをノーコードで可視化・構成できるようになり、保守運用の属人化を根本から解消します。

Key 2: コンテキストサービスを介した多階層データの高速処理と制限緩和

自動裁定プロセスを設計する際、コンテキストサービスを使用してデータモデルを抽象化し、エンジンに効率よくデータを引き渡すアプローチが極めて有効です。請求(ヘッダー)から請求保証範囲支払詳細(最下位明細)に至る複雑な多階層データをセッションキャッシュとして保持・再利用できるため、Salesforceプラットフォーム上での冗長なデータベースアクセスを最小限に抑え、ガバナ制限を意識した高パフォーマンスな処理基盤を構築できます。

Key 3: 事前保証請求(PWA)の組み込みによる手戻りと確認コストの最小化

ディーラーが実際の修理作業に着手する前に、Experience Cloudポータル等から事前保証請求(Pre Warranty Authorization: PWA)を申請させ、自動チェックをかける運用設計を推奨します。これにより、フロントエンドにおける適用可否の見積り精度が劇的に向上し、修理完了後に「保証対象外」として申請が却下されるような手戻りや、メーカー・ディーラー間での無駄な事実確認コストを大幅に削減できます。

おわりに

今回は、Automotive Cloudのコア機能の一つである「保証ライフサイクル管理」のデータモデルと全体像について解説しました。ポイントは以下の3つです。

  • 複雑な保証規定を標準オブジェクトで構造化: WarrantyTerm や CodeSet などを利用して、保証内容を詳細に定義可能。
  • 請求の階層管理による透明性の確保: Claimを頂点とし、Item、Coverage、Payment Detailへと細分化することで、正確なコスト集計と追跡を実現。
  • 自動化エンジン(BRE・コンテキストサービス)の活用: 複雑な裁定ロジックをノーコードで設定し、パフォーマンスを保ちながらディーラーとメーカー間の処理を迅速化。

より詳細な実装手順や設定方法については、Trailheadの関連モジュールや、Salesforce公式のヘルプドキュメントも併せてご参照ください。

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