2020.11.04

【イベントレポート】ポストコロナは“ハイブリッド”が鍵に。出口治明氏が考えるこれからの企業のあり方

新型コロナウイルスの影響は、企業の経営に多大な影響を与えていることは間違いありません。ワークスタイルにおいても、企業そのもののあり方についても、これまでの常識とは異なる、まさにニューノーマルの時代に即した対応が求められています。

10月20、21日の2日間に渡って開催された「TerraSkyDays 2020 Online」では、「ニューノーマル時代を切り拓く企業経営とは」と題したスペシャルセッションを実施。ご登壇いただいたライフネット生命の創業者でもある立命館アジア太平洋大学学長出口治明氏に、ニューノーマルの時代、企業が生き残っていくために今どのような考え方をもつべきなのか、ライフネット生命のCMに出演した際から出口氏と親交のある弊社社員、ジェイソン・ダニエルソンが話を伺いました。

大学の授業は秋からオンラインと対面のハイブリッドで

出口氏が学長を務める立命館アジア太平洋大学では、新型コロナウイルスの感染が国内で拡大し始めた4月からの春セメスターより全面的にオンライン授業に移行しました。その判断は、まだ国内では本格的な蔓延が確認されていなかった2月の時点で早々に行われたと言います。

というのも、同大学は在籍する6,000名の学生うち、実に半数の3,000名ほどが世界各国・地域から迎え入れている留学生。日本に入国できない学生も多かったことから、「2月の段階で、ひょっとしたら(国外から)帰ってこられない、ということが想像がついた」ため、すぐにWeb会議サービスのZoomと契約を交わした、と出口氏は話します。

ニューノーマル時代を切り拓く企業経営とは (2)

10月の秋セメスターからは対面の授業を再開しましたが、オンライン授業も継続。まだ日本に入国できない学生や、国内でも移動することがリスクと考えている学生らにも「等しく勉強してもらう」ために、「全てハイブリッド」を選択しました。教育機会の均等をモットーとする大学として、4月からのオンライン化と10月以降の“ハイブリッド”で学生全員が授業を受けられる環境を用意することは、当然、という考えだったようです。

オンラインを継続するのであれば、対面授業を再開しないという考え方もあるかもしれません。その質問に対して出口氏は、「大学は授業と研究をする場所。特に研究は、学生や先生がワイワイ話す中からいろいろなアイデアが生まれます。学生同士で励まし合ったり、学生と教職員の何気ないおしゃべりの中で学ぶきっかけを得る、ピア・ラーニングが大事で、大学はやはり“場所”のビジネスだ」と回答。授業そのものだけでなく、対面で得られる学びを提供する場としての役割を、大学は持っていると語りました。

コロナ後は現代のルネサンスが始まる

徐々に状況は改善しているとはいえ、多くの大学が通常の対面授業を諦めざるを得なかったこのコロナ禍。企業についても同様に通常のワークスタイルを保てなくなっており、先行きの不透明感が続いていますが、出口氏は反対にアフターコロナに期待感を抱いているようです。

「パンデミックと言えば、最初に思い出すのは14世紀のペスト。ペストのときに人々はどうしたかというと、ステイホームしてるんですよ」と話し、詩人ボッカチオの作品「デカメロン」を引き合いに出しました。「あれはフィレンツェの町から逃げ出して郊外の別荘でステイホームしている物語。パンデミックが起こったら、人間ができることはステイホームしかないんです」と言います。

薬やワクチンが開発されるまでは、ステイホームとニューノーマルを行ったり来たりするしかできないとしつつも、結果的にはそのペストが、イタリアで発祥し、その後ヨーロッパ全土へと広がっていった新たな文化の発出である「ルネサンス」を生んだと指摘します。

「パンデミックに関しては、歴史から学べる」と語る出口氏

ルネサンスのときと同じように、ポストコロナになるとまた人の行き来は盛んになるだろうと出口氏。しかしながらオンラインの便利さを享受した今、「テレワークやオンライン会議はなくならない」と見ています。以前と全く同じ状態に戻ることはなく、通常のオフィス勤務に加え、テレワークやオンライン会議を組み込んだ「ハイブリッド型の社会になる。ニューノーマルは永遠には続きません」と予測します。

すでに企業のなかには押印をなくす動きが出ているところもあり、その他の業務もオンライン化が進み、働く場所の自由度も高まっています。ペーパーレスが当たり前になり、通勤時間も節約できる、こういった新しい働き方が従来の働き方と組み合わされることで、「それが(現代の)ルネサンスになるのでは」と出口氏。

同様のパンデミックの例としてスペイン風邪についても言及し、数千万人が亡くなった結果、「そういうのを見た人々は、戦争をやめようと思いました。その後、ワシントン軍縮会議や国際連盟ができ、グローバリゼーションが進んでいます」とも付け加えます。世界的なパンデミックが落ち着いた後には新たな世界が待っている、そのような期待感を出口氏は抱いているようです。

過去の成功体験、伝統的な仕事のスタイルは一度捨て、忘れるべき

ではニューノーマルというものに対して、個人や企業は具体的にどのように対処していくべきなのでしょうか。出口氏はまず「ニューノーマル」の言葉の定義があいまいになっていると苦言を呈します。

「ニューノーマルを検温や手洗いやマスク、ソーシャルディスタンシングの意味で使っています。ウィズコロナの時代は、ステイホームとニューノーマルを行ったり来たりするもの。コロナ後はニューノーマルは必要ありません。ニューノーマルという言葉は、ウィズコロナに限定して使った方がわかりやすいのでは」と語ります。

また、今やマナーの1つのようになっているマスクについても、「ずっとしているべきではない」というのが同氏の考えです。「口や鼻で呼吸をしている人間の体は、マスクをつけた状態で正常に動くようにはプログラミングされていない。不自然なことは長続きしません」と言い、ウィズコロナの時代が終わればマスクを外した方がいい、と提案しました。

一方で企業はどのように変わっていくべきでしょうか。出口氏は、「企業でも人間でも、1つの理論しかない」とし、「(進化論の)ダーウィンが言ったように、強いものや賢いもの、大きいものが生き残るとは限らない。何かが起こったときに生き残るのは、適応したものだけ。だから我々人間や企業にできることは、適応しかない」と断言します。

企業がそこで適応していくには「経営者が知恵を絞る」以外になく、大事なのは「時間軸を分けて考えること」だと出口氏。「ウィズコロナは長くて2~3年。(今と)その後を分けて戦略を考えないと生き残れない」ため、そこで重要なキーワードとなるのが「ハイブリッド」だと言います。「テレワークやオンライン会議をいかに上手に組み込むか、というハイブリッドの組み合わせが経営者に求められます」。

そして、19世紀のプロイセンの政治家ビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉を紹介しました。「人間はつい自分の経験にとらわれてしまいます。でも(コロナという)新しいことが起こったんだから、過去の経験は忘れた方がいい」と語り、過去の成功体験、判子や朝礼のような日本企業の伝統的な作法も一度捨て、忘れた方がいいと、大胆な発想の転換を迫る出口氏。

すべてのビジネスパーソンへエール

セッションの最後には、「トップの人、マネージャークラスの人には、過去の成功体験は1回忘れてほしい」と改めて経営者に向けてメッセージ。「パンデミックの後は、長いスパンで見ると人間社会は良くなっています。自信をもって新しい“ハイブリッド”に挑戦して」とエールを送りました。

ジェイソンの決めゼリフ「以上!」に、「はい」とお返事いただいたシーン

セッションがスタートしてすぐは、ふたりの会話のテンポが違い過ぎてハラハラしましたが、話が進むとともに、出口氏の幅広い知識、ポジティブなマインドに引き込まれ、あっという間の1時間でした!

最後の最後もうまくかみ合わず、それが面白かったいうご意見もいただけて、よいDay1のオチになりました。

出口先生、ありがとうございました!!
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