2026.06.03

Automotive Cloudで何を“車両情報”として持つのか

当社では、社内の技術力向上の一環として、西日本の拠点メンバーを中心に Salesforce Automotive Cloud の勉強会を実施しています。検証環境での確認や公式ドキュメントの読み合わせを通じて得た知見を、同じようにキャッチアップする方の助けになる形で整理したのが本記事です。

はじめに:なぜAutomotive Cloudが必要なのか

自動車業界における最大の課題の一つは、「データの分断(サイロ化)」です。車両の製造情報、販売店での購入履歴、整備工場でのメンテナンス記録、コールセンターへの問い合わせ――これらが別々のシステムで管理されていると、お客様一人ひとりに最適な体験を提供することが難しくなります。

Salesforce Automotive Cloudは、これらの情報を「車両(Vehicle)」を中心に統合し、顧客との接点を360度つなぐためのプラットフォームです。今回は、その心臓部であるデータモデル、特に「車両と顧客の関係」をどう定義しているのか、初心者の方にもわかりやすく解説します。

車両と顧客をつなぐ:データモデルの肝

Automotive Cloudを理解する上で最も重要なのが、「Vehicle(車両)」「Asset(アセット)」、そして「Account(取引先)」の関係性です。標準のSalesforceを知っている方ほど、「AssetがあるならVehicleはいらないのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、ここには自動車業界特有の論理があります。

主要オブジェクトの役割整理

まずは、主要なオブジェクトがどのような役割を担っているかを表で見てみましょう。

オブジェクト名 役割・定義 主な項目例
Vehicle(車両) 物理的な「モノ」としての車を管理。VIN(車台番号)が主軸。 VIN、モデル年、トランスミッション、製造日
Asset(アセット) 車両と顧客、または契約を結びつける「所有・利用」の状態。 購入日、保証終了日、現在の走行距離
Vehicle Definition(車両定義) カタログスペックの定義。「どの車種か」を特定するマスタ。 ブランド名、モデル名、排気量、燃料タイプ
Account(取引先) 顧客(個人・法人)および販売店(ディーラー)。 氏名、住所、顧客ランク、属性
Point:なぜVehicleとAssetに分かれているのか?
車は一生の間に、複数のオーナー(Account)に渡る可能性があります。Vehicleは車そのものの不変の履歴(リコール履歴など)を保持し、Assetは「今、誰が持っているか」という期間ごとの関係性を保持します。これにより、中古車流通まで見据えたライフサイクル管理が可能になります。

図解:車両情報関連のデータモデル

現場でどう活用されるか?部門別のメリット

このデータモデルが整うことで、各部門の担当者は以下のような情報を「一画面」で把握できるようになります。

1. 営業担当者(セールス)

お客様の現在の保有車両(Asset)だけでなく、過去の試乗履歴や検討中の車種を把握できます。また、「下取り(Trade-in)」の検討プロセスも標準機能で管理しやすくなっており、買い替え提案のタイミングを逃しません。

2. 整備担当者(アフターサービス)

「この車両(Vehicle)は過去にどんな不具合があったか?」というサービス履歴を即座に確認できます。走行距離の更新データ(テレマティクス連携等)があれば、消耗品の交換時期を予測したプロアクティブな提案が可能になります。

3. コールセンター

「お客様の車が今どこにあるか(Assetの位置情報連携)」や「契約している保証プラン(Warranty)」がすぐに分かるため、トラブル時の初動が劇的に速くなります。「車両コンソール」という専用画面により、複数のオブジェクトを行き来する手間が省けます。

考察:カスタマイズの余地と注意点

Automotive Cloudは非常に強力な標準機能を備えていますが、実務に導入する際には以下のポイントに留意が必要です。

  • 既存システムとのVIN連携: 基幹システム(生産管理や在庫管理)から車両データをインポートする際、VINをユニークキーとしてどう同期し続けるか、初期設計が重要です。
  • 所有者と利用者の違い: 「所有者はリース会社だが、利用者は個人」というケースがあります。これには「Party Role」という概念を使い、一つのAssetに対して複数の関係者を定義する柔軟な設計が求められます。
  • データの鮮度: 走行距離(Odometer)などの動的なデータは、コネクテッドカー連携がない場合、整備時の手入力に頼ることになります。どの項目を「手動」にし、どの項目を「自動」にするかの運用ルール策定が不可欠です。

まとめ

Salesforce Automotive Cloudの学習の第一歩は、「Vehicle(モノ)」と「Asset(コト・所有)」を切り分けて考えることにあります。これができると、自動車業界特有の複雑なビジネスプロセスが驚くほどきれいに整理されます。

今回の振り返り:
  • Vehicleは車両そのものの履歴、Assetは顧客との関係性を管理する。
  • 車両コンソールにより、営業・整備・CSの全員が同じ「車両360度ビュー」を共有できる。
  • 所有者・利用者の多重関係など、実務に合わせたParty Roleの活用が活用の鍵。

さらに詳しく学びたい方は、Salesforce公式サイトのTrailheadにある「Automotive Cloud」モジュールをぜひチェックしてみてください。

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