2023.01.30

「問題」について考えてみませんか?-「ライト、ついてますか」のご紹介-

Just a moment... (30554)

【はじめに】

 最近、めっきり本を読む時間が減っていたのですが、年末年始に長めに休みが取れて、久々に昔読んだ本の読み直しができたので、今回はそのご紹介になります。

 「ライト、ついてますか ―問題発見の人間学」という知る人ぞ知る名著になります。
初版が1987年10月、私が持っている本が2000年5月の版(43刷)というかなり古くから出版されていた書籍なのでご存知の方も多いかもしれません。

 一言でいうと「問題を解決する方法・仕方について」ではなく、「問題そのものについて」焦点を当てて語られている本になります。

【内容紹介】

(ここから先はネタバレになります)
 この本は以下のような6部構成となっており、それぞれに数章ずつ、合計20章 161ページの本となっています。

第1部 何が問題か?
第2部 問題は何なのか?
第3部 問題は本当のところ何か?
第4部 それは誰の問題か?
第5部 それはどこからきたか?
第6部 われわれはそれをほんとうに解きたいか?

 読む人によって「刺さる」箇所は様々だと思いますが、個人的に刺さった内容を「さわり」程度ですが紹介したいと思います。
われわれは腹の中に問題を解きたいという自然の欲求をもっているために、どうやらせっかちに回答に飛び込んでしまったようだ。多分答えを言う前に、2,3の問いを発した方が賢明であろう。だがそれはどういう種類の問いか?
  それは誰にとって問題なのか、
  何が問題なのか、
  ないしは問題とは何か、
というのがそれである
via 「第1部 何が問題か?」「1.問題」 P.4 より
 「問題」を解く前に、そもそもその「問題」について考えてみるという考察ですが、システム開発でよくある、「お客様から出てきた、RFP(ないしは要件定義資料)に対してどうやったら実現できるのか?」という考えからスタートするのではなく、「そもそもその要求って何だろう?」という事を考えてみようという話に置き換えられると思います。
 ただ、その数ページ後に「いつまでも何とか問題を定義しようとして堂々めぐりをし、定義はひょっとして間違っているかもしれないがともかく回答を出してみよう、という勇気がどうしても出ないためにまずいことになる、という例もある」という指摘もあるので、何事も過ぎたるは及ばざるが如しはここでも当てはまるかと思います。
問題とは、望まれた事柄と 認識された事柄の間の相違である
via 「第1部 何が問題か?」「3.キミの問題は何か?」 P.15より
と、すれば、問題は欲求を変えること、または認識を変えることによって解決できるわけである
via 「第1部 何が問題か?」「3.キミの問題は何か?」P.17より
この辺りの話は、特に画面系(ユーザインタフェース系)の問題を考える上で色々と応用が利きそうな考え方・視点だと思います。
(システムの裏側の、例えば夜間バッチ処理の時間の短縮とかについても応用できるかもしれませんが個人的にはそちらの話は技術的なパフォーマンスチューニングや、何ならシンプルにハードやシステムの性能を上げるといった対応の方が望まれる結果への近道とは思いますが)
彼らの解決方法を問題の定義と取り違えるな
彼らの問題をあまりやすやすと解いてやると,彼らは本物の問題を解いてもらったとは決して信じない
via 「第2部 問題は何なのか?」「4.ビリー・ブライトアイズの最適入札」 P.36より
こちらは実際に本書を参照してもらった方が良さそうですが、自戒の念も込めて取り上げさせてもらいました。

【おわりに】

 個人的な感想としては、少々文体や内容に「回りくどさ」や「古臭さ」を感じるものの、ありふれた例を用いながら、シンプルな表現で構成されている本なので、中高生でも読んで理解できる内容なのではないかと思います。

 ただ、その一方で読む人のバックグラウンドや周りの環境・コンテキストによって、その内容の解釈・腹落ち具合にはかなり差が出る内容なのではないかと思います。
 実際、私も時々読み直していますが、「読んで、知って、理解した気でいたけど、実際の現場で、本に書かれていたような落とし穴に落ちていたな」とか、「(本を読んでいたおかげで)別の視点で質問することが出来て、そのおかげでリスクを回避することができたな」と、その度に発見があります。

       ×      ×      ×

 最近の車はひと昔の車と比べれば、エアバッグやらABSが付いているのは当然、全方位モニターや縦列駐車のためのパーキングアシスト機能なども充実しています。

 今まで「人」が担ってきた役割を機械や仕組みに肩代わりさせることで単に「車に乗る」だけなら車の免許を持っていればかなりハードルが下がってきました。
語弊を恐れずに言うと、「車に乗るのが簡単になった」と言えると思います。
 技術の進歩という点で「車自体が乗りやすくなる」のは歓迎されるべきことだと思いますが、一方でまだまだ「車を乗りこなす」事は相変わらず難しいのではないでしょうか?
(どこかの漫画のように湾岸道路を300kmオーバーで、、、という話を横において置いたとしても、単純に交通事故の死傷者数が、「車を乗りこなす」事の難しさのある種の証明になっていると思います)

       ×      ×      ×

 この本は、(システム開発における)「問題」の扱い方について、車の運転と同様「シンプルさの中にある奥の深さ」に、気づかされる1冊だと思いますので、ご一読されてみては如何でしょうか。

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(追記)
この本のタイトル「ライト、ついてますか」は、ダブルミーニングになっています。
1つは本文中に挿話された、トンネルを抜けた後に(自動車の)ライトの消し忘れをドライバーに促すための標識(標語)の事です。もう一つは読み手に対して「あなたの頭の中のライト、ついてますか?」という筆者からの投げかけのようです。
ただ、前者については、最近の新車にはオートライト機能が義務化されているので、「電話のダイヤルを回す」という歌の歌詞のように、意味が分からなくなる日も遠くなさそうですね。
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