2025.10.01

現場で活かす!若手エンジニアのためのドメイン駆動設計入門 〜『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』と『実践ドメイン駆動設計』を読み解く〜

はじめに:なぜ今「ドメイン駆動設計(DDD)」なのか?

皆さんは、日々の開発の中でこんなことを感じたことはありませんか?
 ・要件が複雑で、設計やコードに自信が持てない
 ・実装したけど、業務の本質を捉えていない気がする
 ・コードが「言葉」としてチームに伝わらない
私はシステム開発の経験を積むほどに「設計の質」がソフトウェアの成否を分けると痛感します。そんな中で、圧倒的な存在感を放つのが 「ドメイン駆動設計(DDD)」 というアプローチです。

この記事では、DDDの原典である『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』と、より実践に寄せた『実践ドメイン駆動設計』のエッセンスをまとめ、特に経験1〜3年目の若手エンジニアが現場で活用できるような視点で解説していきます。

ドメイン駆動設計(DDD)とは?

ドメイン = 業務知識のかたまり

まず「ドメイン」とは何かですが、DDDにおいてのドメインとは、ソフトウェアが解決しようとしている業務領域・業務知識そのものを指します。例えば、銀行であれば「口座」「振込」「残高」、ECサイトなら「商品」「注文」「在庫」などがそれにあたります。

DDDではこの「ドメイン」に深く焦点を当て、ビジネスの本質を正確にモデル化し、開発者と業務担当者が同じ言葉と理解で会話できる状態を目指します。

モデルとユビキタス言語

DDDにおいて最も重要なキーワードの一つが「モデル」です。これは、業務の仕組みを抽象化したソフトウェアで再現可能な構造のことです。

そしてこのモデルを支えるのが、「ユビキタス言語(Ubiquitous Language)」になります。開発者・ビジネス担当者・設計者が共通して使う言語体系のことを指します。
例:
「取引」という言葉が、業務でもコードでも同じ意味で使われている
「注文」が、コードの中では Order クラスとして登場し、設計ドキュメントにも同じ言葉で記載される
(※)ポイント
   仕様書の言葉とコードの命名が一致していないと、チームの認識が分断される。
   DDDはこの「言葉の不一致」を根本から無くそうとする取り組みとも言える。

『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』のエッセンス

この書籍はDDDのバイブルともいえる存在で、2003年に出版されました。難解とされることも多いですが、核心は「設計を通じて、ビジネスを深く理解し、価値を届ける」という思想にあります。

戦略的設計の主な概念

境界づけられたコンテキスト(Bounded Context)

1つの大きなシステムを複数の「文脈(Context)」に分け、意味の衝突やモデルの混乱を防ぐ手法です。

例えば
 「在庫管理」コンテキストでの「商品」と
 「販売管理」コンテキストでの「商品」は
ビジネス的な意味が違う可能性があります。これらを同じモデルで表現すると混乱を招くため、コンテキストを明示的に分けるのがDDDの重要な戦略です。

コンテキストマップ

複数のコンテキスト間の関係(共有、翻訳、制限など)を図で整理します。大規模システムでは特に有効です。

戦術的パターン(Tactical Design)

戦術的DDDでは、モデルを構成するコードレベルの要素を定義します。以下が基本構成です。
 ・エンティティ(Entity):識別子を持ち、ライフサイクルを追跡する(例:ユーザー、注文)
 ・値オブジェクト(Value Object):属性の集合。同値なら同一とみなす(例:金額、住所)
 ・集約(Aggregate):整合性の単位(例:注文と注文行を一つのまとまりに)
 ・リポジトリ(Repository):集約の取得・保存を担当
 ・ドメインサービス(Domain Service):エンティティに属さないドメインロジック

『実践ドメイン駆動設計』のポイント

ヴォーン・ヴァーノン著『実践ドメイン駆動設計』は、エヴァンス本の思想を“現場でどう使うか”に焦点を当てた書籍です。

主な特徴

 ・多数のUML図・コード例によって具体的に解説
 ・CQRSやイベントソーシング、非同期メッセージングとの統合にも言及
 ・ソフトウェアアーキテクチャとの関連が深い

若手エンジニアにおすすめのポイント

・実装しやすいパターンが豊富
 ⇒ EntityやValue Objectをどう設計するかの具体例が豊富。
・設計と実装の接続点が明確
 ⇒ DDDの理想と現実のギャップを埋める視点がある。
・進化的アーキテクチャの重要性
 ⇒ モデルは変わるもの、という前提の設計思想。

具体的な活用方法

会話をモデルに落とし込む練習

1.業務担当者と会話する
2.ホワイトボードやMiroでモデリングする
3.クラス図にする
4.コードに落とし込む

小さなシステムで適用してみる

例えば、社員の勤務管理や図書貸出システムなど、身近で小さなドメインからDDDの考え方を試してみてはどうでしょうか。

よくある誤解と注意点

誤解 正しい理解
DDDは大規模開発でしか使えない 小規模でも「ドメインへの意識」は役立つ
EntityやRepositoryを使えばDDDになる あくまで「モデリング」が主軸であり、ツールは手段に過ぎない
難しいからやらない 少しずつ取り入れることが可能。まずは「ユビキタス言語」から

最後に:若手エンジニアへのメッセージ

DDDは「正しい設計手法」というより、「人とドメインをつなぐ文化」です。ビジネスの本質を理解し、それを設計やコードで表現する。その営みこそが、価値あるソフトウェアを生む源になります。

「設計が好きになった」「業務の会話が楽しくなった」——そんなエンジニアになってもらえるきっかけになれば嬉しいです。
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